卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

開設者が決定的な役割−改正卸売市場法下における市場開設者のあり方

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市場活性化への開設者のあり方が模索されている(横浜南部市場)

2020年6月21日に施行される改正卸売市場法は開設者のあり方にどのような変化をもたらすのだろうか。改正卸売市場法の施行は、市場のあり方の変化だけでなく、開設者のあり方、役割をも劇的に変化させるものとなるだろう。この変化はどのような意義を持つのだろうか。

国の役割を開設者に委ねる

これまで卸売市場法は、公設、民設を含めて全ての市場業者を、行政の管理監督の下で営業活動を行わせ、それによって国民に対する食料の安定供給を図ることが法目的であった。

その卸売市場法が変わる。今まで卸売市場の管理・運営を行ってきた行政の役割を「開設者」に委ねることになったのである。

開設者は、ただ施設を所有し賃貸する不動産事業者ではなく、個々の市場業者の業務、経営、財務に及ぶまで、その実態を把握し、運営改善を進める立場に立たねばならなくなったのである。改正卸売市場法後の最大の課題が開設者のあり方である。

原則規制と原則自由の違い

これまでの公設市場・民営市場は国の方針を実行する組織であった。
全国の卸売市場と国の関係は、いわば巨大企業グループにおける本社とグループ企業の位置づけであった。

それが分社化された。わずか19条の改正卸売市場法に基づき、取引方法、結果の公表などを中心とする共通ルール以外は自由な経営権限を与えるという方針となった。

従来の卸売市場法は「決められた以外の取引はやってはいけない、ただし例外的に次の場合は認める」という法律であり、改正卸売市場法は逆に「どういう取引をするか各市場で自由に決めればいい、ただし、このことだけは守りなさい(共通ルール)」という法律である。

現行法は「原則規制」、改正卸売市場法は「原則自由」である。

開設者の役割と責任

こうした特徴を持つ改正卸売市場法の下で、開設会社の役割はどのように変化するのだろうか。

  1. 許認可から認定制に変わるが、この認定は開設者に対してであり、卸売会社についての認定ではない。申請主体は公設、民設にかかわらず全て「開設者」が申請し、国や自治体が認定することになる。
  2. 「第三者販売、商物分離、直荷」は市場ごとの自由な判断となったが、これは「市場業者の自由」ではなく「市場ごとの自由」であり、この「自由」の責任は開設者が担うことになる。市場取引や運営について法令違反がある場合に責任を問われるのは開設者である。
  3. そして改正卸売市場法の最大の特徴は、卸売市場の独自性を認める基本が市場の健全経営について開設者が責任を持つことである。

新しい次元に立つ「市場株式会社」の経営責任

「本社と子会社」の関係であった国と全国卸売市場の関係は、今度は各市場の開設者と市場業者の関係に移る。

開設者が経営主体(本社)である市場内で、市場内企業(支店)がバラバラの経営方針のままで市場の健全経営を行うことは望めないだろう。

これまでの「市場株式会社」論は、国のお説教レベル(言うだけ)に過ぎなかったが、6月以降は開設者が定めた管理運営、言い換えれば経営方針に基づき、市場業者の営業活動をも指導しなければならない。市場経営の責任は各市場業者が負うのではなく市場開設者が負う、まさに「市場株式会社」の経営責任である。

開設者として経営責任を持てる人材育成を

国が担っていた卸売市場のコントロールは開設者に移る。

自由に競争すれば「神の見えざる手」によって秩序ある社会発展が実現するという考え方は古典的経済市場主義である。

今、市場業者が自由に営業すれば市場活性化は実現すると考える関係者はいないだろう。

市場内の業界間の調整がうまく進まないと、秩序なき競争が進行し、いたずらに利害対立が増え、市場の一体性が崩壊してしまう可能性がある。結局、そのつけは開設者が負うことになる。

「市場株式会社」の意識は、改正卸売市場法によって新しい次元に立つ。その経営体にふさわしい人材育成を急がなければならない。

(全国第3セクター市場連絡協議会会報・第32号より)