卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

丸勘山形青果市場の果たす役割(下)−流通の効率化ビジネスモデル

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左:佐藤明彦 代表取締役社長、右:井上周士 代表取締役専務

丸勘山形の特徴

粗利10%、経常利益3%がなぜ実現できたのか、丸勘山形の取り組みは、改正市場法下での流通の効率化を目指す典型的なビジネスモデルである。

なぜこうした数字が一民間市場卸で可能なのか。
その特徴が次の通りである。

⒈ 流通の効率化 丸勘流通は生産者−丸勘−小売の3段階

改正市場法の論議で出た「卸売市場を入れると流通が多段階で高コスト」、「卸売市場をカットしたダイレクト物流で効率化」という国の資料図はかなり刺激的だった、

丸勘山形の下図の惹句もこれに劣らず刺激的である。 

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このシステムは、国が生産者の直売所と市場を通した場合の農家の所得を比較したのと同じで、あくまで限定的なサプライチェーンである。

しかし、丸勘山形が、この3工程によるサプライチェーンに取り組んでいることは間違いない。その具体的な取り組みは以下の方式である。

2.4100名の生産者直結方式

①県内64か所に集荷場

この3工程を実現するためには、生産者と小売の間の工程を全て丸勘山形が担わなければならない。

丸勘山形は、県内67か所に設けた集荷場にコンテナ出荷された青果を集荷、場内で選果、箱詰め、配送まで全て行う。つまり農協の果たしている機能を市場として行っているのである。

県内の登録生産者数は4100名いるが、丸勘山形に出荷するには、適正農薬使用の誓約書を提出してもらい、残留農薬を検査し安全確認した上で「安全栽培責任票」を添付して出荷される。

「丸勘GAP」(農業生産適性規範)である。

主力商品は品目ごとに部会を設け、年2回の栽培防除講習会を行っている。

②受託・相対販売が利益の源泉

10%を超す高い利益率を確保している最大の要因は、生産者から受託で集荷し相対で販売する取引である。

買付は全体の数パーセント、受託・相対が利益の源泉となっている。

この受託・相対取引ができるのは、生産者からの信頼と、販売先に対する付加価値の提供が実現できているからである。

そうした丸勘山形の営業姿勢を典型的に示しているのが「さくらんぼ流通」と呼ばれる当日収穫した「さくらんぼ」を、24時間以内に小売店頭に並べる「当日収穫・当日販売」のさくらんぼ流通である。

③当日収穫・当日販売の「さくらんぼ」流通

生鮮流通における最大の付加価値は「鮮度」である。

とりわけ高級果実の「さくらんぼ」は鮮度が命で、早ければ早いほど価値は高くなる、つまり生産者所得も高くなる。
丸勘山形は競売で価値を高めるのではなく鮮度で価値を高めた。

「さくらんぼ」の収穫は通常、昼の1時から3時で、それから集荷、選果をしていては小売店頭で販売できるのは通常3日から4日かかる。

その解決のために、県内1500名の生産者から43か所で集荷し市場でパック、午後7時半から相対販売し、当日夜10時には東北、関東、関西に配送することで、東日本では翌朝販売を可能にしたのである。

スーパーからの、なんとか翌朝販売できないかという要望に応えたシステムである。

1日平均18トン、ピーク時1日30トン、倍々で増え、今では年間15億円を売り上げる主力商材となっている。

丸勘山形から何を学ぶか

「マルカン」の名は市場業界では有名である。

何をやっているのか、なぜ純粋な民設民営でここまで伸ばすことができたのか、豪雨等の被害がでた翌朝は全員で産地の見舞いに回るなど生産者を大事にする姿勢は際立っていると聞いていたが、それだけではここまで売上を伸ばすことは難しいだろう。

何があるのか、今回取材し、この取り組みを他市場が参考にしようとしてもなかなか難しいだろうとあらためて思った。

その理由は、第一に集荷から選果、箱詰め等の農協が行っている機能を全て市場内で備えていることである。

農協不要論、仲卸不要論につながり、当然、既存ルートを基盤に拡大してきた市場にとっては無理な取り組みである。

昭和49年に開設された中央市場の近くで、平成元年取扱い10億円の零細卸では、系統品や大型量販店との取引は望むべくもない。

生きるために必死に県内生産者から直接集荷する以外になかったからである。

無借金経営、施設は全て自前、補助金なし。中央市場の隣地であることも規模と機能の棲み分けに幸いであった。

現在の到達点は、市場として生産者団体と取引するのではなく、最初から個々の生産者の、業務代行機能として必要なことを一つずつ対応してきた通過点にすぎない。

現在29期目、社長は3代目、若手社員が「他の市場に行ってあまりに違うのでびっくりした」と話していたが、何よりも経営陣、職員の姿勢が最初からそうした営業を当然のこととして受け止め企業風土として定着したのだろうと思う。

パート含めて 約100人が働く丸勘山形青果市場は、最初に紹介した国の市場法改正に向けた資料図「流通が多段階で高コスト」の解決を市場として取り組んだ実践例だが、到達点を見て学ぶのではなく、生産者優位の流通とはどういうものか。どうすべきかの考え方を学ぶ好例ではないだろうか。

 

(丸勘山形青果市場株式会社・概要)

設立

昭和30年年6月20日

資本金

1,000万円

代表取締役

佐藤 明彦

売上

平成29年度131億円(前年比103%)

組織内容

野菜 果実 商事 開発 総務

従業員数

70名

所在地

山形県山形市十文字2160

連絡先

(TEL)023-686-6161 (FAX) 023-686-6177

URL

https://www.marukan.net 

e-mail

marukans@cameo.plala.or.jp

敷地総面積

40,590㎡ (12,300坪) 

建物総面積

10,909㎡ (3,300坪) 

生産者数

5,430名(県内登録数)

県外出荷団体

550団体(県外出荷団体