卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

卸売市場の物流改善には何が必要か-三和陸運(株)井上博保社長に聞く

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井上博保社長

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三和陸運は博多に花専用冷蔵配送センターを建設し、九州全域から関西へと配送網を広げている

新卸売市場法は、これまでになく物流の重要性を強調している。
今後の施設整備の支援対象を、①物流、②品質管理、③情報、④輸出の4つの機能を中心とした合理化計画で農水大臣の認定を受けたものに限るとされた。

この4つの機能のうち、最も重要な市場機能が物流であることは明らかである。
物流を中心として品質管理と情報機能が整備することで、産地から小売までのサプライチェーンマネージメント(SCM)の構築をめざす方針である。

市場機能の一環としての物流はどうあるべきか、九州博多を拠点としてアジアへの輸出拠点としても機能しつつある花き流通を中心とした運送会社「三和陸運(株)」(井上博保社長)を取材した。

1.三和陸運の概要

三和陸運の発祥の地は福岡県の糸島市で、花き部門、飼料部門、物流部門の三部門がある。
物流は創業以来の部門で企業の根幹。海上コンテナ輸送を含め車両トラックは約150台。
飼料部門は畜産業界向けに九州全域に配送、食肉自由化を受けて大型化による経費節減を図っている。

博多を拠点に空港物流センターと花専用冷蔵配送センターの物流拠点施設を建設、総合認証システム「MPS」を花業界として世界で初めて受けた。同時にPJS(パーソナル情報システム)の情報システムを新たに導入し、集出荷業務の一元化システムを作り上げた。
こうした実績をもとに、産地、市場卸、IT企業と連携し関西に大規模な共同荷受場の開設を計画している。

新卸売市場法の施行に先立ち、運送会社がコーディネートすることで卸売市場と実需者をつなぐサプライチェーンを構築する取り組みは、今後の、卸売市場の新たな機能を創出するものとして注目を集めている。

2.井上社長に聞く

―花き流通に参入した理由〜物流、飼料、花き部門が事業の3本柱

「三和陸運は1978年に会長がトラック1台で創業し、1998年に倒産寸前だった鉢物の運送企業を依頼されて買収したことが花き運送に進出したきっかけです。その前は発祥の地の糸島で物流と、食肉業界向けの飼料を販売していました。
花の運送は鉢物中心でしたが、市場流通は切り花と鉢の比率が8対2でしたので、切り花中心に切り替えました。
それから拠点を博多市に移し、空港物流センターと花専用の冷蔵配送センターを建設、2か月後に総合認証システム「MPS」を運送会社として世界で初めて取得することができ、流通過程の温度管理、品質管理、トレサビに対応するようになりました。
それが2012年で、それから10年経った時に卸売市場法の改正と働き方改革による深刻な人財不足等の新たな問題にぶつかることになりました。考えてみると、ほぼ10年ごとに大きな転換期を迎えています。」

―運送業界の現場と問題点 働き方改革の功罪

「働き方改革によって労働集約型だった運送業界も大きな転換を余儀なくされています。
効率経営を目指す以外に企業としての生き残りはないのですが、今まで2人の仕事だったのが3人〜4人かかる、最低賃金も上がる、花の運送は夜中が主なので、それだけでも25%アップします、今まで夜も寝ないで配送するがその代わりに給料も多い。それが魅力で運送業界に入り、支えてきた人たちが出来なくなった、皮肉なことにドライバーの環境改善が逆にドライバーの労働意欲を削いでいるのが現状です。労働環境が改善されてドライバー不足がさらに深刻化するという異常事態が進んでいます。これは運送業界全体に共通する現象になっています」。

―ドライバーの退職理由 どうすれば定着するか

「ドライバーの退職理由は、①給料が少ないこと、②人間関係を築くことが苦手な人が多いこと、③拘束時間の長さ、④職業病の四点です。しかし辞めた多くの人がまた他社で働かざるを得ないという状況です」。
「どうすれば定着できるようになるか、労働条件の改善しかありませんし、三和では、トラックからの積み降ろしを別にしてドライバー負担を軽減するようにし、二つ目にはトラックを大型化しドライバー不足を補う。また、会社負担で大型免許を取らせてその代わり三年間働いたら返済は不要で1年で退職したら費用は返済する契約をしています」。

―ファースト1マイルの改善

「輸送単位は1台100〜200ケースが前提で運賃設定されています。10ケース以下の場合は宅配等を利用していましたがそれが出来なくなっています。この解決に向けた運送会社の課題は、最初と最後の改善、ファースト1マイルとラスト1マイルの改善です。ファースト1マイルの改善は宅配に学ぶ、宅配はコンビニ等に客が持ち込んで、そこから集配します。市場流通も産地、生産者を個別に回らず、地域ごとの保管場所を決めて、そこまで持ってきてもらう。そのストックポイントから集荷することでトラックや運転手の確保が可能になります。現状は生産者も少なくなって高齢化し、荷を出すのに10分〜20分は待ってくれという負のスパイラルになっています。農協ですと1カ所で積むので市場出荷は1〜2時間で終わりますが、個人の生産者は軒先集荷で20件は回らないと満車になりません。このファースト1マイルの負担がドンドン増えています。」。

―ラスト1マイルの改善

ラスト1マイルも配送先は増え積載量は減る。コストは増えるばかりです。福岡から6台東京に配送していますが、大田と他1市場で3時間ですが、6カ所だと6時間〜7時間かかります。共同荷受けがないと繁忙期はパンクします。運送会社からみると繁忙期は1.5倍が許容範囲で、盆はこの日だけ10倍になり、普段通りの配送が要求されます。その要求通りに、九州から東京へ配送すると、おそらく運賃は宅配便の2倍になるでしょう。ファースト1マイルの改善を図らないと実際は4〜5倍になるだろうと思います。運賃を上げないと運送会社の経営は維持できませんし運賃を上げると生産者の再生産はできなくなるでしょう。こうした実情を訴えて、産地・生産者の協力を得てなんとか改善を図っていきたいと思っています」。

―物流とIT活用

「物流拠点である博多の低温配送センターでPJS(パーソナル情報システム)のシステムを活用して受発注システムの効率化を計りました。システムは集出荷情報をドライバーに流し、ドライバーは確認サインをして集荷、修正があればその場で修正して集荷し配送センターに集め、そこで方面別に仕分けし、検品を終えて配送指示が出されトラックが出荷するとともにバックヤードに請求書などの作成が自動的に行われるシステムです。特に多くの人は配置していません。私と他数人が担当します。GPS機能はありますので今後、産地向けのシステム化なども検討しています。」

―共同荷受場の開設目指す

「パレット輸送は花には向いていません。潰れます。青果は重量ですが花は容量です。キクを天井まで積んだら間違いなく倒れます。台車輸送しかありません。輸送の効率化にはデポがどうしても必要です。例えば関東付近にデポがあると、作業はドライバー3人が検品、積み降ろしをやって、100台だと10分違うと2時間違ってきます。帰りをどうするかも問題になりますが、帰りは成田から輸入品や東北に行って積んで帰ることができます。、拠点に集約して往復転送するのが理想です。そのストックポイントを市場で行うことができると理想的ですが、高床ではないので荷を上げ下げする時間と労力が違ってきます。今、関西に規模の大きい共同荷受場を産地と市場卸、IT企業の連携で建設計画が進んでいてぜひ実現したいと思っています。」

3.市場流通の学ぶべき意義

配送業務は下請けではない、無料サービス機能でもない。
今や物流と情報を組み込んだサプライチェーンマネジメント(SCM)機能を構築する以外に卸売市場を含めた中間流通の生き残る道はないと言っても言い過ぎではないだろう。

改正市場法は最初に述べた4つの機能を組み込んだ合理化計画を求めている。
そして今後、重要なことはその国の方針に沿った事業とはどういうことなのか、実際にどのような機能強化と経営改善に役立ったのかの実戦例の構築が最大、最優先の課題である。
そうした意味で三和水産が産地や市場卸、IT企業と連携し関西に共同荷受場を作り、デポ機能を果たすことは大きな意義を持つだろう。

一時的な支援事業ではなく継続できるSCM構築の試みである。
花業界はIT機能を生かした取引の効率化では先進事例を多く生み出している。
次は産地と小売を結び温度管理と情報管理を備えたサプライチェーンの確立が新卸売市場法下で早期に実現することを期待したい。市場活性化に向けた事例として貢献するだろう。
(農林リサーチ2018年11月号より転載)