卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

美しい音と美しい味

先日、鎌倉芸術館でミーシャ・マイスキーのリサイタルを聴いた。

マイスキーのバッハ無伴奏チェロ組曲はiTunesに入っていてよく聴くのだが、数十年前、府中の森芸術劇場で初めてマイスキーを聞いて以来の生演奏はまた格別である。

今回は娘のリリー・マイスキーとの共演で一層盛り上がった。

午後3時開演だったので、4時半か40分には終わるだろうと思っていたが、何とアンコールが5曲で終演は5時半である。

客席はどっと沸いた。

ブラームスとショスタコーヴィチのチェロ・ソナタは圧巻で、リリー・マイスキーも白熱の演奏である。チェロとピアノの対等なジャムセッションの趣があり「美しい音」を堪能した。

美しい味「美味い」という語感は、日本語独特のものだと思うが、口が味わう美である。音楽は耳が感じる美であり、目が感じる美に絵画がある。

料理はもちろん、口だけの美ではなく、皿などの食器を含めた目の美でもあり、その典型が料理の美を極め尽くした北大路魯山人である。

魯山人は、若狭小浜の春秋のサバが日本一で「東京市場の近海サバは関西物のような好ましさがない、段違いのやくざものである」、「サバを語らんとする者は、ともかくも若狭春秋のさばの味を知らねば、さばを論じるわけにいかない」と、東京近海のサバが聞いたら怒りそうなことを書いている。

しかしグルメの本家がおっしゃるのである。

先月、小浜に行ってサバを食べた。ノドグロの塩焼きを食べた。刺身も食べた。丸海魚市場の美味しいサバ缶も頂いた。

福井県は原発銀座と言われているが、小浜に原発はなく、海岸の川崎地区には卸売市場も産直も、フィッシャーマンズワーフも、海の駅も海水浴場も釣り場も、日帰り温泉(入った)も全て揃っている。
サバ街道は、ゴール京都よりもスタート地点の小浜が良い。

サバには辛い思い出もある。

若い頃、京都で5千円近い、私には、とんでもなく高いサバの棒寿司を買い、高島屋の大階段に座り食べたことがある。

しかし、サバ寿司の費用を浮かすために出張経費を節約しサウナに泊った報いか、あるいは押し寿司を1本丸ごと食べたためか、胸焼けがとまらなかった。