卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

大阪府中央市場指定管理者、1億円の利益と活性化事業

2018年7月29日付け、指定管理者「大阪府中央卸売市場管理センター(株)の1億円の利益確保」に続く市場活性化事業の取り組みである。

一年間の主要な活性化事業

  1. トイレ改修を第1期に続き重点事業として取り組み、29年度は未改修であった6か所の改修を終え、場内88か所のトイレ改修を全て終えた。
  2. 管理棟エレベーターで休止していた1基を改修・稼動した。
  3. 管理棟1階の展示ゾーンのリニューアルを行った。
  4. 事業連携大学の梅花女子大学も参加して香川県庵治漁協を現地訪問し「オリーブハマチ」の養殖漁場見学、生産者と意見交換しオリーブハマチを使ったレシピを開発・提案するなどの連携を強化した。
  5. 青果部門では同じく事業連携大学の追手門学院大学生の参加の下、JA徳島北を訪問し、同組合が取り組んでいる「コウノトリレンコン」の収穫体験や栽培方法等について意見交換を行った、
  6. 地元茨木市のNPO法人「茨木子ども食堂」の取組に支援、平成29年度から場内仲卸業者の協力を得て食材を提供し高い評価を受けた。
  7. その他、産地特産品の販売強化を図るために卸売業者の協力を得て、旬の食材をテーマに産地フェアを量販店等やデパートで実施、市場開設35周年の記念事業の一環として一般公募によるマスコットキャラクターゆるキャラ「せりちゃん」を量販店等のイベントに29回出演し活用した。その他、市場案内DVDや外国人向け市場案内パンフを作成した。

安定した経営基盤の要因

こうした収入増と支出減の取り組み、市場活性化への多彩な取り組みはなぜ実現出来たのだろうか。

1.経営体としての独自性が確保されていること

第一にあげなければならない要因は、管理センターが経営体としての独自性が確保されていることである。

管理センターの経営体制は、代表取締役は山口秀雄・大阪府水産物卸協同組合相談役で以下、取締役5、監査役1、社員6(正社員5,嘱託1)である。
代表取締役に29年度から若干の報酬が支給するようになった他は無給。

定例課長会議や常駐代表者会議などで市場関係者との情報共有を図るほか、日常的なスピード感、効率的・効果的な市場管理運営を担うのが6名の事務局。行政担当時代に比べると三分の一になり、責任者以外は担当を固定せず、全員がオールラウンドプレーヤーをめざす。

中心となる経営のプロがいて初めて機能する制度だが、こうした独自の動きを保証しているトップのリーダーシップと役員等の合意が前提である。

一般論としてはそれほど困難ではないように思えるが、指定管理者を導入した多くの公設市場では、使用料の徴収代行機関としての実務機関に徹するか、職員数を減らすことによって生じた人件費の削減分を面積割使用料の減免の原資にするケースが多く、これも市場業者に対する経営支援として市場活性化に貢献するとも言えるのだが、市場の管理運営、活性化に責任を持つ市場経営体としては不十分だと言わざるを得ないだろう。

2.力のある市場業者の集合体であること

第二の要因は卸、仲卸等の市場業者に力があること。
大阪府市場の卸は、青果、水産ともに各2社で、全社が大阪市中央卸売市場(大阪本場)のグループ会社である。

取扱高も4社合計の市場取扱高は1千億円前後で安定しており、仲卸と共に関西圏を代表する大型広域拠点市場として機能している。

こうした業界の力の安定を背景に管理センターの経営体としては安定しているのだが、意思決定の機関としては本社社長をメンバーとするとスピード感、効率性が望めないため、仲卸組合理事長が代表者に就任し実質的な意思決定機関は常駐代表者会議が担う。

卸の協調・協力無しには機能しない体制であり、こうした面でも市場の一体感が指定管理者の成功を左右する重要な要素であることを示している。

3.市場業界と行政自治体の信頼が構築されていること

さらに、これも重要な点だが、大阪府と市場業界の信頼関係が確立していることで、先に紹介した様々な活性化事業は、行政と業界の共同事業として取り組まれている。

特に、他市場に見られない特徴的な取り組みが、指定管理者としての修繕事業の他に、大阪府の責任となる施設改修事業を管理センターが受託し、工期・価格・品質において民間の優位性を活かした地方自治法に基づく「大阪府依頼事業」として覚え書きを結び、大阪府の予算で29年度は3件、6,320万円の事業を実施した。

管理センターの果たす意義

改正卸売市場法下で、管理センターは大きな役割を果たすことになるだろう。

改正市場法は「全体を見れば国の関与が弱まった中で、必要な物が少し入っているというのが、この(法案の)構造だ。」(斉藤農相の国会答弁)である。

改正卸売市場法が求める課題は、最大限の効率性と最低限の公共性の両立を図ることだが、効率性・市場の健全経営に重点があることは明らかである。

そして健全経営の基本は収入増と支出減である。

今まで紹介した管理センターの取り組みは、収入増もコスト減も、それほど起死回生の策というほどではない。
誰もが思いつくことを一つ一つ丁寧に実行してきただけとも言える。

それでも中央市場ではどこもチャレンジできず、導入した市場はない。

近い将来、市場会計の健全性は、一般会計操出等の支援なしに健全経営できる開設者を目指さなければならなくなるだろう。

指定管理者制度を導入している市場は約30市場あるが、管理でなく市場運営機関として機能している管理センターの取組は、改正市場法後の市場開設者のあり方を検討する大きな事例となるだろう。