卸売市場流通についての諸問題

市場流通ジャーナリスト浅沼進の記事です

開設区域と商圏

中央市場の開設は、実態としては各自治体が計画し国が認めるという手順なのだが、法的には農水大臣が全国的な整備計画に従って開設区域を定め許可する手続きであり、卸売市場法の最も重要な開設要件である。

この「開設区域」という概念は、中央市場の配置という国のグランドデザインに基づくものだが、一方では市場業者の営業は開設区域内に限るといった規制条文はない。そうした面では、開設区域は商圏とは異なる概念である。

中央市場は住民の生活向上のためのインフラだが、水道のように必ず各自治体になければならない社会インフラではない。

だからこそ国が必要と認めた開設区域のみに中央市場の開設を許可するのである。そうした意味では、地方自治体が開設した中央市場は、その該当開設区域だけのための社会インフラではない。

同じ地方公営企業である電気やガスとの違いがこれで、例えば東京電力が勝手に施設をつくって関西や九州で営業すると社会的混乱を招くだろう。

ややこしい言い方だが現実をみると明らかで、例えば神奈川には横浜と川崎の二つが中央市場があるが、横浜市場は横浜市だけの流通に責任を負っているわけではなく、神奈川全県下に対して供給責任を負っているのである。

また千葉県では千葉市、船橋市ともに中央市場から地方市場に転換したが、開設区域が卸売市場の存立要件ならば、千葉市は千葉地方市場の他に中央市場を別に開設すべきだという荒唐無稽な理屈になってしまう。

卸売市場法では「開設区域外への販売禁止」規定はないのに、なぜ業務規定で細かい手続きが義務化されたかは、こうした電気、ガスと同じ地方公営企業法が公設卸売市場にも適用されたからである。

公設卸売市場は、社会的インフラとして地方公営企業法の共通の適用を受けるので、国の法律で開設区域を設定されると、開設・運営の責任を持つ地方自治体は開設区域外への販売に対応するための例外規定を設け、そうした取引を行う場合には別に申請承認を得なければならないとしたのである。

つまり規制ではなく、開設区域と商圏の現実的な差異を法的にカバーするために煩雑な実務規定を設けたのであり、開設区域外への販売自体は法律違反ではない。

繰り返しになるが、開設区域は中央市場を新たに開設するための基準であり市場業者の取引を規制する条文ではないが、開設自治体が業務規定で煩雑な申請手続きを規定せざるをえなかったのは、こうした地方公営企業法と現実の乖離である。

規制するための条文ではなく規制条文の矛盾に対応するための事務手続きのための条文なのである。