3月末に行われた日本農業市場学会公開特別研究会「卸売市場の現在と未来を考えるー流通機能と公共性の観点からー」を聞きました。
公共性の視点から改正市場法を評価、論議するという興味深いテーマです。
報告者は3人で、広島市場の再整備に取り組んでいる広島修道大学の矢野泉氏が「制度の変遷と公共性」をテーマに国の関与が後退することによって取引面等での公共性がどう担保されるかの問題点を中心に指摘し、中央大学の木立真直氏が矢野氏の提起を受けて「社会インフラとしての公共性」として「あえて」改正市場法の果たす積極的な役割を中心に展開、さらにイオンの社長を務めた戸井和久氏(全農)が生産者と小売の立場から市場流通を評価、問題提起しています。
三者それぞれの視点から公共性を捉えた報告が大変面白く、議論の深まりを期待しましたが、残念ながらコメンテーターとのディスカッションがかみ合わず、それぞれ言いたいことを言う研究者らしい展開になってしまいました。
議論自体は物足りなかったのですが、それはそれで面白く、特に公共性という面から改正市場法を検証するという視点は内容的にも示唆が深く意義のある研究会だったと思います。
改正市場法が19条となったことに象徴されているように、卸売市場の管理運営に対する行政関与は明らかに減っています。
また民間施設も要件を充たせば中央卸売市場の申請が出来ますし、地方自治体が公設市場を開設する基準ともいうべき『開設区域』の概念も撤廃されます。
そうした意味では行政関与は減っているのですが、問題は行政関与が減ることと公共性の問題です。
一時期、手数料業者から差益業者への転換をスローガンに、公設・準公設市場の民営化が進みました。
地方公営企業は原則独立採算を目指すべきだとの立場で民間活力導入の手法として事業管理者や指定管理者、PFI等が導入されています。
藤沢市場のように中央市場から地方市場、指定管理者導入を経て民営市場に転換するという、市場流通の変化を一手に経験する市場も出てきました。
ある開設自治体は、市場会計も卸も赤字ではなかったのですが、「自治体が卸売市場を開設運営する時代ではない」という理由で民営化しています。
また、ある自治体で、開設区域を越えて自由に商売している市場業者に税金を投入する根拠はどこにあるのかが議会で問題となり、市場長から、「生鮮食料品の安定供給というだけでは納得してもらえない」と相談された経験があります。
あらためて卸売市場の果たす「公共性」を明確にすべきではないでしょうか。