平成30年(2018年)6月の国会成立をめざす改正市場法案が明らかになりました。
現在の条文83条が19条となったのをはじめ、「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律」(適正化法)とセットで機能し、許認可制から認定制になるなど、実質は「卸売市場法の改正」でなく、大正12年の中央市場法、昭和46年の卸売市場法に次ぐ平成の新法です。
この改正市場法によって卸売市場はどう変わるのでしょうか。平成32年(2020年)6月の施行に向けて慌ただしい動きが起きている市場流通の課題を検証します。
改正市場法によって卸売市場はどう変わるか
1.市場法改正スケジュール 日程的な余裕はない
2月中 与党審議
3月中 閣議決定 全国説明
20日までに農水省関連9本上程(3月中は予算審議)
4月 法案審議(卸売市場法改正及び食流法改正は・9本中7〜8番目)
卸売市場法は食品流通改善促進法とセットで国会上程
食流法は「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律」(適正化法)に改正
5月 衆議院通過
6月 参議院通過 卸売市場法は2年内の猶予期間、適正化法は6月以内施行
卸売市場法施行日 2020年(平成32年)6月
2018年9月〜10月 政令・省令制定・全国説明会
2018年10月〜2019年6月 政令・省令に基づく県条例(県によっては条例無しも)
県条例に基づく開設自治体・市場別条例・業務規程等準備・申請
2.市場法改正によって市場流通はどう変わるか 現行市場法と改正市場法の違い
- 条文は83条から19条に、基本的理念のみ、改正食流法とセットで機能
- 整備基本方針・整備計画は廃止される
- 卸売市場施設だけでなく市場外施設も「合理化計画」の認定を受ければ支援
- 取引の共通ルールは受託拒否(中央市場のみ)、差別的取扱の禁止、代金決済のルール、取引条件・取引結果の公表
- その他の取引ルール(第三者販売の禁止、直荷取引きの禁止等)は卸売市場ごとに定めることが可能
- 卸、仲卸、関連の取り扱い業種はフリー 業種別業者数の規制は開設者の判断
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法改正最大の特徴は許認可制から認定制への移行
許認可制は国・自治体が許認可した範囲での事業が可能
認定制は高い公共性を有する市場を行政が認定
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民間でも中央市場申請可能
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卸売会社に対する検査なし(開設者のみ対象)
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開設区域の条文は削除、ただし、法文上何も規定がないと、開設自治体の議会で問題となるケースも考えられるので条例や業務規程などで「取り扱い数量」の主たる供給圏といった表現で開設区域に代わる規定とすることが考えられる
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国が出していた「業務規程例」(サンプル)は作られず、各市場の責任で作成する
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地方卸売市場の認定には民営を含め全市場が業務規程等を添付した申請が必要(既存の市場は手続き軽減)
3.市場法改正によって市場流通はどう変わるか 施設整備について
- 従来は卸売市場整備基本方針・整備計画→廃止
- 現在の交付金 強い農業づくり交付金実施要領 予算の範囲内で10分の4以内(経営展望・経営戦略の義務付け)
- 改正後、卸売市場法「国は、下記2(1)①の合理化計画に従って行われる中央卸売市場の整備に対し、予算の範囲内において、その整備に必要な費用の4/10以内を補助できる。」
- 食品流通構造改善促進法の改正
食品等の流通の合理化のための措置
下記の事項を定めた、食品等の流通の合理化に関する基本方針に基づき、食品流通事業者による食品等の流通の合理化を図る事業に関する計画を農林水産大臣が認定。
・流通の効率化(物流)、・品質・衛生管理の高度化、・情報通信技術等の利用、・国内外の需要への対応(輸出入)
- 強い農業づくり交付金の要領・要綱等を改正にあわせて見直される可能性
- 改正食流法は早ければ6月の公布後6月以内に施行(従来の計画は練り直し)
4.市場法改正によって市場流通はどう変わるか 開設自治体と卸
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条例・業務規程をそのまま継続で申請した場合どうなるか
主要なチェック
・共通ルールとして新たに加わる「取引条件の公表」が規定されているか
・農林水産大臣の「卸売市場に関する基本方針」に適合しているか
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これらを満たしていない業務規程では、改正市場法による認定は受けることが出来なくなる可能性が高い
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改正法では買参人の規定が無く、「買受人」の届け出をすれば卸から買える(但し、与信枠、販売単位、決済は差別的取り扱いにならない)
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開設自治体が中央、地方の申請をする際には条例・業務規程等の添付が必要
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現在、千以上ある地方卸売市場が全て申請要件をクリア出来るのか
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中央市場は自治体が開設者機能を有している場合が多く、問題は少ないだろう
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問題は地方市場 地方市場には3通りある
・公設公営市場、・第三セクター市場、・民設民営市場
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問題は民設民営市場
・卸が複数あり独自の開設者機能がある市場
・卸と開設者が同一である市場 この部分が数も課題も多い。
5.市場法改正によって市場流通はどう変わるか 地方市場全てが申請できるか 認定を受けるには全市場に業務規程提出義務があるが、千以上ある地方市場が出せるか
- 国の業務規程例はつくらないことになっており(業務規程例を国が示すことが規制になるという理由)、全ての地方卸売市場は独自に業務規程をつくる必要がある
- 地方市場の申請をしないと都道府県知事の認定はされない
- 認定されないと「地方卸売市場」の名称は使えない
- 現在は卸売場の面積(青果330㎡、水産200㎡(産地市場330㎡)、花200㎡、食肉150㎡)や駐車場等が条件
- 従来の地方卸売市場認可を受けている市場も改めて手続きが必要
- 地方卸売市場を日常的に使っていない市場や、共通ルールの公表などが困難な市場は申請しないという選択肢もあり、結果的に地方市場の大幅減少の可能性も
6.市場法改正によって市場流通はどう変わるか 業種制限廃止の活用
- 関連の業種制限は開設者が規制。卸、仲卸の許可業種制限もなくなるので、開設者が認めれば関連棟で青果や水産の仲卸が直接、営業することも可能になる。
- 同時に卸も仲卸、関連機能を持つことができる。
- 卸売市場は「生鮮食料品等の卸売のために開設される市場」なので卸売り以外の使用は原則禁止。
- 取り扱い業種が業者の申請に任せられるので「卸売場」は水産や青果だけでなく食品全般の販売も可能。卸売場の24時間活用も可能。
- 但し共通ルールによる衛生管理や公表が義務となるので、従来と同じ主要品目とは別の「及び加工食料品等」とすると、取引条件や取引結果の公開は主要品目のみでクリアできる。
- 卸売場の24時間活用による市場外施設とのSCM構築も有利に。支援措置も拡大。
- 但し、卸売場の建設費償還が終わっていないと用途によっては「目的外使用」で、残存助成金返却が必要となる。
- 買参人の規定がなくなり「仲卸その他買受人」となるので、従来の「買出人」全体が卸の取引関係者となり販売先対象は拡大。
- 従来の人員配置・シフトを、グループ企業や協力会社等と調整しSCMの経営戦略必要
- 人材確保に休市増ではない新たな「働き方改革」の対応が必要になる。
- 卸の扱い業種制限もなくなるので青果、水産、花きの統合再編が本格化する。
- あるいは既に出ているように商社が卸を買収し卸売市場を舞台に多角的販売が進む可能性も
7.市場法改正によって市場流通はどう変わるか 卸売会社への指導・処分
- 卸売市場に対する財務検査等は開設者が対象であって業者には行わない。
- 市場外流通も含め食品流通全体について国は定期的な調査を行い、不公正な取引等があれば公正取引委員会に通知する。
- 業務規程違反は国に報告する義務はなく、公取に通知する「不公正な取引」とは偽装等の違反。
- 市場業者の扱い業種は、基本的にはルール(共通ルール、その他取引ルールを規定した場合はその他取引をルールも含む)を守れば何を扱っても自由。例えば青果卸が水産や花を扱ってもいい。
- 県、国への申請時に扱い業種に入れるだけ
- 但し共通ルール、その他取引ルール、食品衛生法等の適用は受ける。
- 開設者と卸売会社が同一の場合どうなるのか、調査、指導はどう行うのか等は課題。
8.市場法改正によって市場流通はどう変わるか その他の課題
- 今まで農林漁業者しか認められなかった、いわゆる「AーFIVE」の出資等、新たな支援措置が可能となり、市場外業者とのコラボが有力な施設整備の手段となりうる。
- サプライチェーン全体が支援の対象となるので、配送業者やIT企業との連携も有力。
- 一般会計繰入基準30%や市場用地・施設の償還金支援などは制度としては残るだろうが、率は不明。
- 市場開設者のあり方再検討が求められる。「市場経営戦略をもった公設の開設者」は経営母体となる開設形態の検討が必要となる。(3セク、指定管理者、PFI,PPP等)
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売上高割使用料・兼業
兼業はもともと市場法には規定されていない。マグロの一船買いなど市場施設を通さない金額が大きい品目について売上高割使用料を免除するために、本来、不動産収入などを想定していた兼業規定を充てたもの。
商物分離取引が拡大されると「兼業」の範囲が問題となるケースが出る可能性も。これらは条例上の問題で開設者と業界の話し合いで解決すべき問題となる。
商物分離取引など、市場施設を使わない取引が増えた場合にも売上高割使用料を課すことは手数料業者から差益業者への転換が進められている売上拡大の阻害要因となるので、 面積割使用料に一本化することも考えられる。
但し、条例改正が必要なので、新しく施設整備を行った後などが有効。
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不公正な取引があった場合の公取通知
不公正な取引があった場合に農水大臣は公正取引委員会に通知することになっているが、実際に可能なのか、公取は動くのか、訴訟となった場合どうなるか、誰が訴訟当事者となるのか、開設自治体が卸売業者を訴えるのか、民営地方市場で卸が開設者となっている場合は同一人が訴訟当事者となる等々を考えれば実際は無理。ただし不公正取引の調査や通知、公表は社会的抑止力となるだろう。
現在、厚労省は労基法違反の企業を平成29年度一年間で全国約300の民間企業を摘発、送検しており、実際は罰金程度だが、場所と企業名を公表する社会的抑止力は高い。